特殊清掃の仕事で覚えるべき知識と技術は作業する現場によって異なります。ご遺体が発見されたそれぞれの場所に応じて必要な知識・技術が違います。例えば、ユニットバスの場合、リビングのフローリングの場合、トイレの場合、キッチンのクッションフロアーの場合など必要な知識・技術は違います。
どの現場でも、最終的には臭いの除去と汚れを落とすことを同時に求められますが、それには「大工工事」「塗装工事」「消臭工事」「清掃仕事」と大きく分けて、4つの項目の知識・技術を満たす必要性があります。そのため元大工職人、元塗装職人、元清掃職人など他業種の職人経験者が特殊清掃業界へ参入する事例も多く見受けられます。もちろんこれらの職人経験が全く無い特殊清掃員も多くいらっしゃいます。
この記事では、これから特殊清掃員になりたい人向けに必要な予備知識をお伝えいたします。新しい知識を得る際、予備知識はまるで土台のような存在です。これを無視すると後々、技術の学びが大変になり、大きな苦労することになります。
なぜ特殊清掃に「大工工事」の知識・技術が必要なのか?
孤独死などで遺体の発見が遅れた場合、体液や腐敗臭が床材や壁材、その下にある木材(根太やパーチクルボードなど)、またはコンクリートスラブにまで染み込んでいることがあります。
その際は丸鋸やマルチツールを使い汚染された床板や壁を解体し、木材や石膏ボードなどを切り取る作業に大工工事の知識・技術が不可欠です。








基本的に現場仕事は手元から覚えていく
手元とは大工職人を補助する作業員のことで、資材の運搬、道具の準備、清掃、片付けなど、大工職人が作業に集中できる環境を整える役割を担います。この時に予備知識が無いと一番困ることがあります。それは道具の名前を言っても通じない場合です。
例えば大工職人が「ウォーターポンププライヤーをください」と言っても手元役が分からないと、業務がスムーズに運びません。このウォーターポンププライヤーのことを職人によっては「カラス」と言う人もいます。丸鋸くらいは誰でも分かるでしょうが予備知識として作業に必要な道具の名前は全て覚えましょう。参考に特殊清掃で良く使う道具のラインナップをお知らせします。


- 丸鋸(特殊清掃の鋸刃は木工用主体で外径125mmか外径165mmが一般的)
- マルチツール(替刃は木工用、金属用、石膏ボード用などがある)
- メジャー(スケールとも言う)
- ノギス
- バール
- ハンマー
- 電動インパクトドライバ(コードレスにて10.8V、14.4V、18Vが一般的)
- 電動ペンインパクトドライバ(コードレスにて7.2Vが一般的)
- 電動インパクトレンチ(コードレスにて14.4V、18Vが一般的)
- ウォーターポンププライヤー(カラス・アンギラス・アンギラとも言う)
- ラジオペンチ
- ニッパー
- ペンチ
- プライヤー
- ドライバー
- カンナ
- スクレッパー(物体の表面に付着した汚れ、古い塗装、シール、油汚れなどを効率的に剥がすための道具)
- 皮スキ(主に建築塗装で劣化した塗膜や錆を剥がすための道具)
- ケレン棒
- 掃除機
- 集じん機
- ホウキ・チリトリ
現場仕事は見て学び、「なぜ?」を追求する
職人はマニュアル的に仕事を教えることが苦手な人が非常に多いです。なぜなら多くの職人はマニュアル的に仕事を覚えたことが無いから、マニュアルでの仕事の教え方を知らないのです。しかし若者の中にはマニュアル的に覚えることを要求してくる方もいらっしゃいます。
私が思うに現場仕事のマニュアル的な対応はデメリットが多く目立ちます。職人として人間としての成長を邪魔するシステムに感じてます。
マニュアル通りに決められた作業を繰り返すだけになり、仕事へのやりがいを感じにくくなる可能性がある。
マニュアル通りにしか動かなくなり、自分で考えて工夫する能力が低下する。
イレギュラーな事態が発生した際、マニュアルにない対応ができず、かえってトラブルにつながることがある。
現場仕事は見て学ぶことがベストに思います。古臭いかも知れませんが、先人は「仕事は見て盗め」なんて言い方をしていました。
「なぜ?」を考える
「なぜ?」を考えることが大事な理由とは「この部材は何のために使われているのか」「なぜこの順序で施工しているのか」といった疑問を持ちながら手元の作業することで、物事の原理原則への理解が深まります。
また手元が職人の手順を見る際に、 次に行うであろう動きや考えていることまで想像することで、先を読む力が養われます。
人間は自分で考えて行動できる動物です。しかしマニュアル主体で仕事を覚えると「考える力」がどんどん低下していくように思います。だから基本的に私は、マニュアルでの仕事に対して反対派です。人間らしく考えて行動して、失敗もあれば、成功もある。試行錯誤して仕事を覚えることが、仕事の楽しみ方の一つだと思う。
なぜ特殊清掃に「塗装工事」の知識・技術が必要なのか?
特殊清掃業界では多くの人が「特殊コーティング」または「防臭コーティング」と言っており、つまりこれを簡単に説明すると「塗装工事」になります。床上で亡くなった場合、発見が遅いと身体は溶け出し大量の体液が発生して、床下のコンクリートスラブ等へ浸透いたします。この際に浸透されたコンクリートスラブを550度の熱が発生するヒートガンで炙り、脂分をある程度は蒸発させる訳ですが、その後で臭い止めに「塗装工事」を行う訳です。
この塗装工事で使う塗装は「油性」と「水性」があり、それぞれのメリットやデメリットを知るべきです。更に「建築塗料の材質と耐用年数」や「塗装面の洗浄」「下塗り」「中塗り」「上塗り」「最終上塗り」などの作業工程も予備知識として知るべきです。もちろん使う道具の名前も予備知識として必要で、「養生テープ」「マスカー」「養生シート」「バケット」「ローラー」「ハケ」程度は知っておくべきしょう。
床下だけでなく天井(ジプトーン)も塗装工事することある
特殊清掃現場ではご遺体の発見が遅い時、天井まで臭いが付着していることあります。この際に天井がクロス(壁紙)なら臭いが付着したクロスを剥がして、最終的には新しいクロスを張替えすれば良いのですが、天井がジプトーンなら「塗装工事」を行い防臭処理する訳です。
特殊清掃で必要な「清掃仕事」の予備知識とは
特殊清掃業務で清掃の必要性は誰にでも理解できると思います。その際にどんな予備知識があったら良いと思いますか?また特殊清掃はご遺体があった場所だけを清掃すれば良い訳ではありません。亡くなった部屋を隔離していない限り、死臭は家中に拡散されてしまいます。そのため完全消臭を目指すなら拡散された全ての部屋を清掃する必要性があります。ここでは清掃する上で最低限、必要な予備知識をお伝えします。
洗剤の液性
| アルカリ性 | 酸性の汚れに強く、油汚れ、焦げ付き、手垢、皮脂汚れ、タンパク質汚れなどを分解する洗浄力が高い |
|---|---|
| 酸性 | アルカリ性の汚れ(水垢、石鹸カス、尿石など)を中和して落とすために活用される |
| 中性 | アルカリ性や酸性の洗剤と比べて洗浄力は強くありませんが、軽い汚れを落とすのに適している |
具体的に落とせる汚れの種類とは
落とせる汚れの種類を表でまとめます。
| 液性 | 落とせる汚れ |
|---|---|
| アルカリ性 | ・油汚れ ・ヤニ汚れ ・皮脂汚れ ・ヌメリ ・カビ ・血液 |
| 中性 | ・ホコリや手アカなど軽い汚れに適している |
| 酸性 | ・石鹸カス ・水垢 ・尿石 ・タバコの臭い ・アンモニア臭 |
汚れを落とす手順
建材がどのような性質をもっているのか?(使うスポンジや薬剤の影響はないか?)
建材に付いた汚れはどのような汚れなのか?
汚れの種類に適した洗剤は何か?


特殊清掃で必要な「消臭工事」の予備知識について
特殊清掃の「消臭工事」では薬剤による空間噴霧での消臭作業やオゾン発生器やヒドロキシル発生器を活用する消臭方法が一般的です。どちらも消臭効果だけでなく除菌効果も考えて作業いたします。
大きく分けて「薬剤の空間噴霧」または「オゾン発生器やヒドロキシル発生器の活用」となる訳ですが、空間噴霧ではULV(フォガー)またはフォグマスターと言う電動噴霧器を良く使います。


除菌消臭作業で良く使う薬剤とは
特殊清掃では「二酸化塩素」や「次亜塩素酸ナトリウム」を良く使います。他には「エクスペル」や「MA-T PRO 10000」などもありますが、ここでは定番の「次亜塩素酸ナトリウム」を取り上げます。
この「次亜塩素酸ナトリウム」は、金属を腐食させたり、漂白させたり、保存性が悪いことから、改良版の「安定型次亜塩素酸ナトリウム」も市販されております。それぞれのメリットやデメリットは予備知識として知るべきでしょう。
ヒドロキシル発生器 とオゾン発生器の主な違い
ヒドロキシル発生器とオゾン発生器の主な違いは、簡単に説明すると「有人状態で使える」のがヒドロキシル発生器で「無人状態で使う」のがオゾン発生器です。それぞれのメリットやデメリットは予備知識として知るべきでしょう。
そしてヒドロキシル発生器とオゾン発生器では、基本的に作業現場で設置する場所が異なります。特殊清掃員として初心者が良く行っているご遺体があった付近に、オゾン発生器を設置することは正しい判断と言えないと思います。この件も「なぜ?」と考えながら知識を深めていくと効果的な消臭方法にたどり着けると思います。


まとめ
これから特殊清掃員になりたい人向けに必要な「予備知識」をお伝えしました。仕事の覚え方には様々な考え方があると思います。自社マインドカンパニーでは、特殊清掃に関して、もしマニュアルで仕事を覚えた場合、自分で考えて行動する力が弱くなり、伸びしろのない人へ育ってしまうと考えております。
特殊清掃と言う仕事は、まだまだ新しいスキルの習得の必要性があり、業務効率を今以上に改善する余地があると思います。そんな中、マニュアルで仕事を覚えた人に、どこまでの思考力や行動力があり実行力があるのでしょうか? 私たち特殊清掃員は、ユーザーの期待に応える仕事をするためには、マニュアル人間にならない日々の業務姿勢が大切だと感じております。
現場仕事は見て学び、「なぜ?」を追求することがもっとも大事だと考えております。
| 作業内容 | 消臭を目的に作業 | 汚れ落としを目的に作業 |
|---|---|---|
| 大工工事 | ||
| 塗装工事 | ||
| 消臭工事 | ||
| 清掃仕事 |



